烏丸御池を出発して梨木神社から御所をぐるりと歩いたらいい具合におなかがすいた。 御所の南、丸太町通の道路向かいに「花もも」は在る。
さすがにお昼時とあって店の外にも中にも席待ちのお客が立ち並んでいる。
人気の店のようだ。
待つこと十数分。一階のテーブル席が空いた。
本当は御所の木立が窓越しに見える二階のカウンター席がよかったのだが。
メニューに「金鶴風和(きんつるかぜやわらか)」を発見した。
新潟・佐渡の純米酒である。
あてに注文した「酒肴膳」は、鴨肉、柚子味噌、生ゆばの3点盛りである。
とろとろと喉を滑らかに滑り落ちる「金鶴風和」もお代わりをして御機嫌なほろ酔い気分のところへ田舎そばが到着した。 最初、注文のときお店の人が
「この田舎そば、とってもくせがありますけど大丈夫ですか?」
と念押しされた。
蕎麦を一口噛んでみる。クセというほどでもない。 この田舎蕎麦、ソバの実の皮も一緒に挽いてあるので色が黒い。
小麦にしろ、米にしろ、味の良さや清澄さを追い求めるあまり、皮や胚芽を除去した結果、確かに旨さの水準は上がったかもしれない。
しかし、大事な味の深さというものを失ってしまったのではないだろうか。
小麦の全粒粉、玄米飯や七分づきなど、味の要素が多ければ味の深さはそれに比例してくる。
クセは慣れるものである。
そばの実の皮にこそ蕎麦の旨味がある。
真っ白でやたらのど越しだけがいい蕎麦など、媚び諂(へつら)いの味がしてならぬ。
この黒い田舎蕎麦、なかなかの美味さだ。
極太の麺は噛むたびに口中いっぱいにそばの香りが広がる。
そして加えて芳醇なコクである。
コクは英語ではbody。
つまり、味覚の要素が充実しているということである。
お酒を飲みながらがとてもいい。
酒の肴に噛みしめて味がでるこの田舎そばはまことすばらしい。 美酒に美味いアテ、そして京都のこだわり蕎麦がなかなか粋である。