京都南禅寺から動物園を回ってのぶらぶらで岡崎に出た。
細見美術館というさほど大きくはないこの美術館は、大阪の実業家・細見良から始まる細見家三代が蒐集した鎌倉から江戸にかけての種々の作品を展示している。
もちろんそれらの作品をゆっくりと眺めるのも楽しいのだが、私の目当てはその美術館の地下にあるカフェだ。
「カフェ・キューブ」。
私は知らない人で程よく混み合っているカフェが落ち着く。
完全な無音よりも雑音が癒しの音として必要な時があるということに、最近気がついた。
密やかなしゃべり声や食器のこすれあう硬質の音がかすかに響いているほうがリラックスする。
それは旅先でも同じで、自分が暖かい繭(まゆ)の中に包まれているというような安心感なのだろう。
客はお互いが他人なので、自分の世界にそれぞれ没入して、回りは透明状態になる。
あの、図書館の空気と同じなのである。
ほっとくつろぎたいときに行けるカフェを持つというのは、少なくとも私の生活にはとても重要なのだ。
旅先で、ほんのりなごめるカフェに出会いたいという思いは皆あるだろう。
イノダコーヒのような、コーヒーそのものの味わいが目当てで出かけるカフェもあるが、こんなふうに旅の中の一時を満喫するカフェというのもあっていい。
イタリアンスタイルのコーヒーがゆっくり舌の上に転がりながら気持ちをほぐし身体を温めていくのが分かる。