京都の楽しみの一つは錦の市場だ。
東京・築地も楽しい。金沢・近江町も楽しい。だが、ここ錦には京の美味がどっさり集まっている。
この市場の始まりは、線数百年前の平安遷都以前にまでさかのぼるという。
本格的に市場として機能し出したのは江戸初期。
江戸幕府より元和元年(1615年)、魚問屋の称号が与えられ、錦市場の発展は途に就いた。
当時は冷蔵庫なるものがなかったので、「降り井戸」という井戸水で生ものを冷やしたという。
この市場で業務用の食材を調達する料亭・店舗も少なくないという。
だが今日ではかなり観光客相手の市場となっているようである。
それも私たち旅行者にしてみれば京都の食が集約されているこの錦はとてもありがたい。
京都を訪れるたびにこの錦へは足を運ぶので、だんだん買う物が決まって来た。
京漬物とぽん栗である。
京漬物は何と言っても京野菜という素材の素晴らしさあってこそだ。
大原、丹波など京都府下に個性的で味わい豊かな野菜の産地が数多ある。
それらの野菜は天皇や公家たち貴族の食文化に適うように洗練された調理法が施された。
漬物も彼らの食膳を彩る一品として漬け方、味付け方が磨かれ抜かれたのである。
日本中にその土地ならではの漬物があるが、京都のそれは味のおいしさに加えて優雅さが感じられるのだ。
ちなみに私の好物は、菜の花漬け、しば漬け、すぐき漬け、千枚漬けである。
菜の花漬けは春限定だ。
酒の肴によし、ご飯と一緒になお良し。
帰宅が本当に楽しみなお土産となる。
毎度の「ぽん栗」は、京都・丹波の銀寄(ぎんよせ)という種類の焼き栗である。
これが実に香ばしくて美味い。
店の奥でぽん栗製造機がものすごい爆発音を上げている。
巨大な圧力鍋みたいな栗焼き機で焼いているのだ。
中で栗が焼け弾けるすさまじい音に道行く人はびっくりしている。
あまりの美味さに私は自宅の庭に銀寄の苗木を3本も植えた。
たわわに実るようになったらさらにこの焼き栗製造機も手に入れようかとひそかに思っている。
この市場は東西に390メートルにわたって、126の店舗が軒を連ねる。
道幅3メートルから5メートルのアーケード通りを、観光客は両側の店を品定めをしながら歩の速度を緩め立ち止りの連続だから自分の都合のスピードでなど到底歩けない。
だがそれがぶらぶらの真骨頂である。
ちょっとハンペンを1枚買い食い歩き食い。これが観光旅行の醍醐味だ。
市場歩きは本当に楽しい。