江戸後期に小江戸川越で創業したうなぎの老舗「小川菊」。200余年の歴史を誇り、愛され続けるうなぎ屋だ。創業当時は屋号「小川屋」を名乗っていたが、四代目当主の時に、それまで代々受け継いできた「菊太郎」という名前から「菊」の字をとって「小川菊」となった。受け継がれてきた名前と同様に、その味も長年大事に受け継がれてきている。
うなぎ屋の命となるたれ。「小川菊」では一子相伝で秘伝のたれとして七代目となる今も、その味は変わらない。新鮮なうちにさばき、白焼きにされた後、ふっくらと蒸されたうなぎ。そこに適度なタイミングで、いい塩梅にたれがつけられていく。うなぎは艶のある美しい蒲焼になり、店の中には、香ばしい何とも言えない香りが漂う。
「小川菊」のうなぎ目指すところは、表面はかりっと歯ごたえを感じさせつつ、中はどこまでもふっくらという絶妙な口当たり。甘辛の秘伝のたれは食べるほどに味わい深く、それでいてさっぱりとした軽さを残す。
米は「地産地消」を大切に、地域の農家から直接仕入れも行う。もちっとしすぎず、うなぎをさらっと食べられるようなちょうど良いバランスのご飯になるよう、十分に心を配る。「小川菊」は長年の味を大切にするだけでなく、常に良いものへと勉強する気持ちを忘れない。
そんな贅沢なうなぎを頂ける「小川菊」の店もまた、訪れる者に特別な気持ちを抱かせる。大正初期建築の現在建物は、市内でも珍しい木造3階建。その佇まいに歴史のロマンを感じ、風情ある空間がつくられた店内も、とても居心地がいい。さりげなく季節の花など活けられ、すみずみまで客へのおもてなしの心が行き届く。
「小川菊」の魅力は、味・歴史・建物もさることながら、“人の心”ではないかと思う。古き良きを守る“心”、常に良きものを追及する“心”、客への“心”づくし。そんな熱く、温かい“心”が「小川菊」で働く人々に表れている。