福井の魚の美味は、年明けの蟹(かに)から始まる。
大寒のぶり、立春の頃のさより。
よもぎが新芽を出す頃になると、やりいか、赤いか、するめいか。
春のいかの甘みは格別だ。
そして、たけのこが終わる頃から、鯛の季節が本格化する。
石鯛は脂が乗ってこくがある。黒鯛は独特のクセがたまらない。
小鯛は口の中ですっととける。
そして、真鯛。甘く、旨みもあり、歯ごたえもしっかりとしていて、口から消えた後も残る余韻は少しも嫌味がない。鯛は、やはり魚の王だ。
福井市学園町にある「すし春」。カウンターに座る。福井だから、寿司ネタの新鮮さ、旨さは保証付きだ。友人たちと誰気兼ねなく宴を楽しみたいときは奥の座敷を使わせてもらう。すし屋だから、寿司・刺身が当然の注文なのだが、最初から寿司ではおなかが膨れてしまう。それに至る前に、あれやこれやと楽しみたいのだ。その肴がこの「すし春」のメニューにはあふれ踊っている!その楽しいメニューの中から、希少な美味を選び出すのは小躍りする楽しさだ。獲れる量が少ないのでほとんど地元、あるいは近県で消費されてしまう。
そういう希少な美味は寿司屋の独壇場だろう。
息子さんが後を継ぐということなのだが、この息子さん、いろいろな店で修業してきただけあって、サイドメニューのユニークさは彼の本領発揮なところなのだ。彼自ら自家製の豆腐は香りも味も濃厚で大豆の旨味が素晴らしい。
やがて、大将の刺身。さすが包丁の入れ方がいいので、刺身の切り口が舌に滑らか。寿司職人の職人気質として繊細だとしみじみ思うのは彼らの魚に対する扱いである。手が熱いときなどは冷水で冷やして魚に触れる。傷みやすく繊細な味を持つ魚だからと同時に、それを食する客への彼らのもてなしの真摯さの表れなのだと私は理解している。
接客業に限らず、人と人とのコミュニケーションは基本的に、その相手を慮って接することができるかどうかだろう。
そういう居心地のいい店をなじみの店に持てたら幸せだ。この「すし春」はそんな思いを満たしてくれる数少ない寿司屋である。