初冬の京都は、紅葉の鮮やかさもすでに土にまみれ消えうせて、早年末のあわただしさににぎわっている。
思えば今年は正月から、四季を通じて京都ぶらぶら歩きを本当に堪能できた。
二十数年前の京都訪問のとき、嵯峨野にある嵯峨天皇御陵に、立ち入り禁止であったにもかかわらず足を踏み入れた私はその晩宿で熱を出し、翌日も床に伏せってえらい目に会った。
あれは嵯峨天皇の霊に憑依でもされたのかと随分怖い思いをしたものだが、今になって思うと、あれ以来とかく嵯峨天皇の生前の生き様に親近感を覚えているから、あのお参りはまんざら悪夢ばかりだったわけではないのだと感じ入っている。
嵯峨天皇の別荘であった大覚寺と大沢の池散策を宵時まで楽しんだ私は、暮れなずむ河原町辺りを流して、予約してあった店の扉を開けた。
“Vocca del Vino”(ヴォッカ・デル・ヴィーノ)。
「ワインの口」、という意味だそうだ。
ここはSalvadore Quomoのような派手さも、Il Giottone のような喧騒もない、落ち着いた大人のレストランだ。
ワインリストを所望したら電話帳以上の分厚いリストがテーブルに置かれた。
値段ごとにきちんと分かりやすく写真入りで解説されている。
今晩はシチリア産の濃厚ボディの赤ワインSaiaをリクエスト。
定番のワインというだけあって実に美味しい。
イタリアの赤ワインはおしなべて果実味豊かでコクも十分あり、若いビンテージでも樽熟成がしっかりされているから、抜栓したら即飲み頃というのが多い。
だからはずれが少ない、とは私見である。
料理も、店の雰囲気も、今日の京都の街と同様、私に限りなく優しい。
今年はまだ2週間ほど残されているから今年を総括するのはもう少し後にしたいが、良し悪しいろいろ混ざっての人生だ。
今年の素敵な思い出に。
今年出会えた素敵な人たちに。
つつがなく過ごせた日々の幸福に。
やり遂せた事の幸運さに。
曲がりなりにも弱音も吐かず見せず年末の此岸にたどり着けた自分の頑張りに。乾杯!